ナブテスコ オートモーティブ株式会社 採用情報

Company

Business

Job & People

Recruit

未来をうごかすプロジェクト

vol.1

次世代ブレーキシステムで、
ドライバー不足解消と
CO2排出量削減に挑む。

トラック隊列走行ブレーキシステム開発プロジェクト

PROLOGUE

規則正しく隊列を組んで高速道路を走る3台の大型トラック。時速80km、車間距離はなんとわずか10m。しかも2台目と3台目の運転席には誰も乗っていない。これは、2021年2月に行われた「トラック隊列走行」の実証実験の様子。経済産業省と国土交通省の主導で実用化をめざす実証実験プロジェクトで、深刻化する物流業界のドライバー不足解消やCO2排出量削減に大きな効果が期待されている。当然ながら、実験とはいえ公道での事故は許されない。トラックのブレーキは二重化され、メインブレーキが故障した際に起動する「2系ブレーキ」と、万一の際にトラックを強制停止させる「3系ブレーキ」を搭載。その2系ブレーキと3系ブレーキの開発を担ったのが、ナブテスコオートモーティブ(NAM)の技術者たちだった。

KEYWORD

トラック隊列走行

複数台のトラックを通信技術による「電子的な連結」によって接続し、先頭車両のみドライバーが運転、2台目以降は無人トラックが自動運転で追従するシステム。

MEMBER

太田
第1設計課
ブレーキとして実動するコンポーネント(メカ部品)の設計・開発を担当。設計検証、図面作成、評価試験を実施した。
松家
新規事業開発課
メカ部品の設計・開発を担当。太田の後任として、メカ部品の信頼性確認や必要に応じて設計変更などを担当。
長谷部
システム開発課 参事
NAMの代表として、プロジェクトを統括する会社に出向。隊列走行システム全体の構想を理解し、NAM側との連携を図った。
松原
システム開発課 課長
プロジェクトリーダーとして社内外のメンバーをまとめながら、経済産業省などとの折衝や調整役として、NAM初のシステム製品開発をリード。
北村
システム開発課
制御ソフトウェアの開発者として、ブレーキシステム全体をコントロールするECUの設計・開発を担当。

写真左から 太田/松家/長谷部/松原/北村

自ら名乗りを上げた、次世代ブレーキ開発。

プロジェクトの始まりは2015年末。国から委託を受けてプロジェクトを統括する会社から、NAMのもとに3系ブレーキ開発の依頼があった。当時のNAMは電子制御のブレーキシステムを本格的に手掛ける前で、従来から定評のあったトラック向けのブレーキ製品(コンポーネント)での依頼だった。NAMの技術力なら3系ブレーキの開発はそれほど難しいものではない。するとこのとき、NAMの社内から「2系もやりたい」という声が上がった。その頃、自動車業界では電動化の動きが活発化しており、もちろんトラックも例外ではなかった。NAM社内でも、ブレーキ部品単品を製作するコンポーネントメーカーから、ブレーキシステム全体を開発するシステムメーカーへの進化を模索し始めたところで、電子制御システム製品の開発は大きなテーマになっていた。しかし、2系ブレーキは、隊列走行全体を制御する自動運転システムとの連動など、ソフト面でもハード面でもより複雑な設計が求められる。NAMにとっては、未知の領域。それでも自ら2系の担当として名乗りを上げたのは、今後システムメーカーとしてとして世界に挑もうとする強い決意の表れでもあった。この申し出をプロジェクトの運営側も快諾。こうしてNAMは未知なるブレーキの開発に乗り出した。

チームワークで、未知なるブレーキの仕様を探る。

自動運転による隊列走行。それは他のプロジェクト参画企業にとっても未知の技術であり、当然ながら設計図や仕様書は用意されていなかった。複雑かつ前例のない技術をゼロから構築しなければならず、どの参画企業も手探り状態で仕様の検討を始めた。NAMが担当する2系ブレーキは、どのような条件で1系から2系に切り替わり、どのように作動するのか。それだけでなく、通常時には決して誤作動しないような制御も必要になる。NAMは、技術部の長谷部を出向という形でプロジェクト統括会社に派遣し、システム全体の理解と情報収集に努めた。ハンドルやアクセル、各種センサーなど、個々の装置がどのように連動し影響し合うのか、各企業が一歩、二歩先まで考え、仕様や性能を決めなければならない。あらゆるシーンや状況を想定しての仕様検討は困難を極めた。

大きな制動力が必要になるトラックのブレーキでは、一般的な乗用車と異なり、空気圧を利用してブレーキを作動させる。隊列走行では、ドライバーのブレーキ操作を起点に、隊列走行全体を司る制御システムから後続車のブレーキを制御するECUに信号が送られ、各輪のブレーキ(メカ側)の空気圧をコントロールするという構造になっていた。ブレーキの踏み加減によって、ECUはいかに的確な指令をメカ側に送り、メカ側はいかにレスポンスよく的確な量の空気圧を供給できるか。NAMのプロジェクトチームは、プロジェクトリーダー松原のもと、プロジェクト統括会社に出向した長谷部とも連携しながら、ECUの設計をシステム開発課の北村、メカ側のコンポーネント設計を第一設計課の太田と松家が担当し、奮闘を続けた。

こうした状況でNAMの力になったのが、現場のチームワークだ。松原は言う。「社内には『ワイガヤ』と呼ばれるスペースがあって、何か相談ごとがあればパッとメンバーが集まって議論できる環境があります。モニターを囲みながら、その場でアイデアを出し合える雰囲気は、つねにチームの力になりましたね」。

試作で直面した「最適化」の壁。

こうして約1年がかりで仕様を固め、最初の試作品が出来上がった。しかし、テストコースでの試験を行ったところ、NAMの2系ブレーキに大きな課題が見つかった。それは「最適化」と呼ばれる壁。本来であれば、ECUから指示を受けて各輪のブレーキが同時に同じ空気圧で作動しなければならない。しかし、それがどうしてもほんのわずかズレてしまう。タイミングにして0コンマ数秒。しかし、わずかな誤差であってもタイミングや空気圧のバランスが乱れると、熱が蓄積してやがてブレーキの効きに影響してしまう。「1台のECUで4つのブレーキを制御しようとする構造に問題があるのかもしれない」。2系ブレーキの開発は大きな壁に直面し、根本からの見直しを迫られた。

失敗は、成功への通過点だ。プロジェクトチームは、立ち止まることなく2次試作に取り掛かった。構造を見直し、メインECUに加えて4台の制御モジュールにもECUを追加。その効果を北村はこう語る。「ECUを前後左右に増設することで、トラックの車重バランスや車両特性に合わせて、それぞれが最適なタイミング・強さを判断してブレーキをかけられるようになりました」。制御システムの変更に呼応して、メカ設計の太田も図面を書き換えていく。ECUが増設される分、制御モジュール内部の部品構成や配置を見直したほか、ECUを守る堅牢性にも気を配った。太田は言う。「トラックの下回りは泥や水にさらされやすい場所です。そのような環境でも、安全のための装置がいざという時に働かないという事態は許されません。ECUを確実に守り、百発百中で信号を制御モジュールに伝えられる強固な装置を目指して設計しました」。少しずつ、目指すべきブレーキの形が見えてきた。

開発を加速させた、「モデルベース開発」。

このプロジェクトでは、開発手法においても新たな方法を試みている。それが「モデルベース開発」だ。コンピュータ上に仮想のトラックを構築し、ECUの制御やブレーキの性能を数値化。さまざまな値を変化させて制御や空気圧への影響をシミュレートすることで、実物を製作して実験をしなくても、高い精度で実物同様の検証ができる。モデルベース開発の導入は、開発期間の大幅な圧縮と完成度の向上につながり、プロジェクトを加速させた。

モデルベース上で目標値をクリアすると、部品を試作し実物で検証する。そして次はそれを左右両側で試してみる。仮想と現実を行き来して、試験を繰り返しながら、ひとつひとつシステムを組み上げていく。そうしてようやく2次試作が完了し、社内での実車試験を経て、テストコースでの実証実験を行った。事前にどれだけ試験を重ねていても、実際にトラックを走らせてみると予期せぬ性能の変化が起こる。走行中にかかる負荷や温度の変化など、どんなに小さな課題も見落とすことは許されない。メカ側では太田の後を受け継いだ松家が改良を重ね、ついにテストコース上でも目標値をクリアするブレーキが完成した。

3年がかりで辿り着いた、公道での実証実験。

隊列走行プロジェクトは、いよいよ公道での実証実験に入った。まずは2018年1月に新東名高速道路で、有人運転での実証実験を実施。一般車が走行する中での実証実験は、隊列走行の実現に向けて大きな一歩となった。その後、再びテストコースでの試験を繰り返し、さまざまなデータを収集しながら、システム全体の精度を磨き込んでいく。続いて2019年1月に新東名高速道路で2回目の実証実験。この時NAMでは、来るべき無人運転での実験に向けて、後続車のパーキングブレーキをECUで操作する「電動パーキングシステム」を追加開発。プロジェクト開始から約3年をかけて、公道での実証実験が可能なブレーキを完成させた。そして2021年2月。ついに後続車無人(助手席に保安要員が乗車)での実証実験を迎える。多くのマスコミが駆けつけ、関係者が固唾を飲んで見守る中、新東名高速道路の遠州森町PA~浜松SA間(約15km)を、3台の大型トラックが時速80km、車間距離約9mの車群を組んで走行。ここに、2016年から約5年の歳月をかけて開発を目指した、新技術である「トラックの後続車無人隊列走行技術」が実現した。現在は、実用化に向けてトラックメーカーなども交えた車体開発に取り組んでいる。

プロジェクトリーダーを務めた松原は、こう振り返る。「なんでもトライしてみる。このプロジェクトを通して、NAMという会社は、やりたいことを熱意を持って提案すれば、大抵のことは認めてくれる会社だということを実感しました。また、トラック隊列走行という、社会的意義の大きいプロジェクトで責任を果たせたことは、社外にNAMの実力を認めていただく良い機会になりましたね」。その言葉通り本プロジェクトの実績が認められ、自動運転バスの実用化を目指す国家プロジェクトでは、NAMは1系ブレーキの開発担当に任命された。日本を代表するコンポーネントメーカーから、世界を舞台に飛躍するシステムメーカーへ。これからもNAMは、技術力と情熱を武器に、新たな挑戦を続けていく。